「さっきからこんなことばかり言っていて…京様、何かお心当たりはございませんか?」

「だってりさっ、りくさまにたすけてもらったんだもん…!きょうさまだって、りくさまがかえってきたっていってたもん!」

「里砂は、街を壊していた悪者から陸様が守ってくれたと言うんです。まさかこの子が嘘を言うとは思いにくいのですが…」

「…里砂ちゃん」

京は苦々しげな表情を浮かべると、少女の目の前に膝を着いてその頭を撫でてやった。

「京様。その子の他にも、今夜の内に京様とよく似た銀髪の青年を見掛けたと言う者が数名おります」

傍で話を聞いていた別の男性が前に出て、声を上げた。

「京様、陸様が春雷に戻られていたんですか?ならば、何故私たち住民には何も知らされていないのですか!」

「住民は皆、陸様のお帰りを心待ちにしております。それを隠される必要は有るのでしょうか…」

「だが陸様が戻られることを一番に願っているのは、若様や領主様たちだろう?何かの見間違いかまた偽者が出たんじゃないのか」

「それに今夜の事件は、一体…何か陸様の件と関わりがあるのですか?!」

最初の男性の一言を皮切りに、群衆が俄にざわめき出す。

京は何も言わず、口惜しげに唇を噛み締めながら俯いていた。

ふと『帰ってきたことはまだ公表しないことになった』と陸が言っていたとき、京が複雑そうな表情をしていたことを思い出す。

あれは京にとって、不本意な決定だったのだろうか。

口々に京を詰問している人々は、その言葉通り、陸の帰りを心待ちにしていたのだろう。

京は彼らの気持ちが痛い程に理解出来るからこそ、何も言えないのかも知れない。

「――京を責めないでやってくれ。判断を見誤ったのは、俺だ」