「晴、何か手伝うことない?」

仄が人手が足りないとのことで職場に出掛けたのを見送り、夕食の支度を始めようとしたところ陸にそう訊ねられた。

「ううん、大丈夫。陸は休んでて」

気を遣ってくれているのだろうが、陸は腕を負傷しているのだ。

下手に手伝わせて、怪我を余計に悪化させてしまったら元も子もない。

「ごめん…もう少し腕が使えるようになったら、ちゃんと手伝うよ」

「うん、有難う」

陸はすとんと食卓の傍の椅子に腰を下ろすと、台所に立つ晴海の姿を暫く黙って眺めていた。

こうして誰かが傍にいて、料理している姿を眺められる機会は少ないので何だか少し緊張する。

「…ねえ、晴。それ、後で貸して」

それ、と不意に手にしている包丁を指され、思わず首を傾げた。

「えっと、いいけど…何に使うの?」

陸は少し狼狽しながら、自身の襟足辺りに手を触れた。

「髪、切りたい」

「ええっ?!」

更に想定外だった言葉を口にされ、晴海は陸が面食らってしまうくらい大きな声を上げていた。

「あ…ご、ごめんなさい。でも陸、これで髪は普通切らないし…そんなに髪の毛長くないじゃない」

確かに襟足と前髪が少し長めかもしれないが、切る程の長さではない、と個人的には思う。