京は先程から陸のことに一切触れていない――言いたいことは、山程あるだろうに。

晴海を叱責しないように、自分の気持ちを抑制しているのかも知れない。

しかし自分にとっては、何も問われないこの状況が何よりも居た堪れなかった。



――邸に戻ると、玄関広間には不安げな表情を浮かべている住民で溢れていた。

「京様…!」

其処へ足を踏み入れた途端、皆が一斉に縋るような眼差しを京へ向ける。

「みんな、無事かい?」

京がその群衆の一人に声を掛けると、問い掛けられた初老の男が恭しく頭を垂れた。

「京様やお役人たちがすぐに避難させて下さったので、幸いなことにも死者は出ておらぬようです。怪我人もすぐに治療を受けさせて頂いてます」

「そうか…」

すると、泣いている幼い女の子を連れた女性が、奥のほうから京の元へと駆け寄ってきた。

「京様…!あの、助けて頂いたうちの娘が…」

「里砂ちゃんのお母さん、何かあったのかい?」

「それが…娘がおかしなことを言って聞かないんです」

「きょうさま…!りさね、りくさまにもういちど、ありがとうがいいたいの…でもおかあさんはそんなこと、できないってっ…きょうさま、なんでりくさま、いないの?」

「!」

泣きじゃくる少女が辿々しく口にした言葉に、どくんと心臓が跳ねた。