香也が言っていた通りだ。

京が止めなかったら、慶夜はあのまま賢夜の命を奪っていただろう。

実の兄をその手に掛けたことすら、気付かぬまま――

「京さん、賢は」

「…其処の廊下を右に曲がってすぐの部屋に移されてるよ」

夕夏はふらりと立ち上がると、覚束ない足取りで病室へと向かった。

「ゆ…」

後に続こうとした瞬間、それを阻止するように京の手が肩へ置かれた。

「京さん」

夕夏の姿が見えなくなると、京は口元を押さえて苦々しげに顔を顰めた。

「っあれが……本当に実の弟の出来ることか…!!あんな残酷なことを、慶夜くんはさせられたのかっ…！」

賢夜が負っていた傷は全て深手であり、躊躇(ためら)いは一切見られなかったらしい。

肉親が若い女性だということに配慮した医師から先にその詳細な説明を受けた京は、俯いて苦しげに息を詰まらせた。

――風弓も、同じだったのか。

小さな頃、いつも自分を守ってくれていた優しい弟。

その弟が人を傷付けても、平然と笑えるような人間に変えられて。

父を殺された憎しみに駆られて、陸の傍にいた人間を――自分を宛て付けに殺そうとした。

陸が風弓のことを話してくれなかったのは、自分がそのことを知ったら悲しむと思ったから、だろうか。