「そんなの嘘っ…嘘だ…!陸…っ?ねえっ…嘘でしょ…」

縋るように陸に視線を向けると、陸は下を向いたまま小さく呟いた。

「…俺が月虹から逃げるとき、助けてくれた人がいるって」

「!」

天地の診療所で月虹の話をしてくれたときに、言っていた――

「その人が…充さんなんだっ…!俺を逃がしてくれたせいで充さんは、その責任を問われて、っ殺された…」

だったら何故、あのとき言ってくれなかったのか。

いつから――最初から、自分が誰の娘か知っていたのか?

じゃあ、ずっと気に掛けてくれていたのも、父のことで後ろめたかったから?

「晴海…お前や風弓は父親を奪われたのに、お前はそれでも陸のことを気遣ってやれるのか」

――風弓?

「じゃあ、風弓は…っ?」

晴海は思わず、陸ではなく香也にそう訊ねていた。

「風弓は俺たちと同じ、能力者として月虹にいたがな」

「風弓が……能力者?」

「…それすら知らないのか?風弓は水の能力者だぞ」

水の能力。

不意に何処かで、最近、溺れたような記憶が脳裏を掠める――いつ、何処で?