再び強引に顎を持ち上げられたかと思った瞬間、すぐ間近に男の顔が迫ってきた。

「…!?…ゃ、だっ」

振り払おうにも、身体の自由は効かない。

首を振って逃れようにも、顎を捕らえる手は外れなかった。

「んっ…ぅ…」

男の唇に塞がれた口の端から、小さく呻き声が漏れる。

すると一瞬の隙を突いた男の舌が、無理矢理口内に侵入してきて、背筋にぞくんと寒気が走る。

いやだ、さわらないで。

やだ、嫌だ、こわい。

お願い、助けて、陸――

「晴っ!!」

――自分の名を呼ぶ、叫び声が耳を突く。

涙で潤んだ視界の端に、肩で息をする陸の姿が見えた。

陸が現れたのを認めると、男はゆっくりと身を離す。

「…来たか」

りく、陸、来てくれた。

逢いたくて、逢いたくて名を呼んだ筈なのに――

直前に見られてしまった光景のせいで、陸の顔を見ることが出来ない。