「――京さん、大丈夫かな…」

「俺は見たことないが、あの人もかなり強いんだろう?なら寧ろ俺たち二人が残るより良かったかもな」

「まあ、賢の言う通りだけどさ。…陸?どうしたの」

京と別れてからずっと押し黙ったままでいると、夕夏が声を掛けられた。

「…もう少しで塔に着く。でも、この先には多分…」

其処まで聞いてから、夕夏は小さく「うん」と頷いた。

「解ってる、つもりだけどね。…心の準備は出来てなかったかも」

「…だからあの双子のところで残ろうとしたんだろ、姉さん」

「うっさいよ、賢」

二人には、今の慶夜と逢わせたほうが良いのか否か――判らなかった。

自分のように、ただ家族に関する記憶を失っているだけではなく、慶夜には強力な洗脳も掛けられている。

風弓の洗脳が比較的簡単に解けたのは、洗脳を施された期間が短かったせいだろうか。

長期的に強固な洗脳を受け続けた慶夜は――果たして姉と兄の声を聞いてどう反応を示すのか。

もしも慶夜が自分のように、肉親の姿を見て何かを感じ取ることが出来れば、或いは洗脳を解ける切っ掛けにはなるかも知れない。

「――着いた、時計塔っ…」

大きな石造りの塔の真下に辿り着いたが、其処には誰の姿も見えなかった。

首を持ち上げると、天辺は遥か上空に見える。

「これっ…昇るの…っ?!」