「奴らは月虹に命じられれば、どんなことだってやるぜ。たとえ肉親が目の前に現れようが、邪魔立てすれば容赦なく殺すよ」

「っ…」

今まで逢ってきた月虹の能力者は、皆冷たい眼をしていた。

陸を連れ戻すことを阻止しようとするなら、確かに容赦なく攻撃を浴びせられた。

「陸はお前を助けるために、この塔に向かって来る。他の奴に襲い掛かられたら…今の陸でも何とか突破出来るかな」

男はこの状況を楽しんでいるように、笑った。

なんだろう――この男は、他の能力者とは何かが違う気がする。

「…だが、多少力が戻ったくらいじゃ俺には勝てない。陸は月虹に連れ戻されるために、のこのこと此処へ来るようなものだ」

絶対的な自信を持って、男がそう断言する。

まるで最初から、全て解っているかのように。

「なに、言ってるの…?っ陸は、貴方に負けたりしない…月虹に連れ戻されたりなんか、しない…!」

「俺の力は陸と相反する力だ。力の程度も、本来なら全く互角…そう言えば理解出来るか?」

本来の陸と、全く互角の力を持つ能力者――ならば完全に力の戻り切っていない陸が彼と戦っても、勝てない…?

「そんなのっ…」

陸はあの苦境の中でも、慶夜を退けることが出来た。

本当なら陸に戦って欲しくはないが、陸がこの男に負かされ月虹に連れ戻されるなんてことは、尚更考えたくもない。

それに陸には、風魔法以外にも精霊を喚ぶことも出来る――きっとこの男にだって負けたりしない。

「やってみないと判らない…か?そうだな、お前はそう思いたいだろうよ。なら陸が今どうしてるか見てみるか」