男は晴海から視線を外すと、石造りの大きな窓から外を眺め始めた。

得体の知れない男に、呑み込めない状況――良く解らないが物凄く嫌な予感がする。

取り敢えずこの男が余所見をしている隙に、此処から逃げたほうが良さそうだ。

そう思い立って身を預けていた肘掛け椅子から立ち上がろうとしたが、どういう訳か全く身動きが取れない。

「!?…っ何、これ…」

手足が、全く思い通りに動かない――四肢を拘束するものは何もないのに、椅子に縫い止められているかのようだ。

「…自分の置かれてる状況が解ってきたか?お前は、此処で大人しく王子様の助けを待っていればいいんだよ」

「えっ…?!」

ゆっくりと迫ってきた男の手が、晴海の顎を捕らえる。

「お前は陸をあの邸から誘き出すための人質だ、晴海」

(陸を邸から誘き出す?!)

では、この男は月虹の追手か――

「見せてやるよ、今の春雷がどんな有り様か」

男が指を鳴らすと、目の前に霧のような薄明るい光が広がった。

その光の中に、火の手が上がる春雷の街が映し出される。

「…!?ひどい…ど、してっ…」

「こいつも陸を誘い出す演出の一つ、だな。街には他の奴らも陸を連れ戻しに来てるが…街を壊して奴を挑発してるんだよ」

「そんなっ…!そのためだけにこんな酷いことっ…」