「――ふう…ま、冗談はこれくらいとして」

一頻り触ったり擽(くすぐ)ったりして満足したのか、夕夏はふと手を休めた。

しかし本当に冗談だっただろうか。

「晴海、髪洗ってあげるよ」

「え…」

「もう変なとこ触らないからぁ」

「うっ、うん…」

湯船から上がって流し場に向かう夕夏に、少し戸惑いながらもついていく。

「折角可愛いんだから、もっと髪も服装も気にすればいいのに」

「見せる相手、いないもの」

「陸がいるじゃん」

「うっ」

結局この話題に回帰するのかと、苦笑しつつ俯く。

「私も、似たようなことで悩んだことはあるけどさ。自分が、どうしたいかを考えてみなよ。…そうすればきっと陸としっかり向き合いたくなるって、私は思うんだ」

――どうやら船上での会話の後から、気に掛けてくれていたらしい。

逃げてばかりでは先に進めず、きっと後で後悔する――その言葉は、夕夏自身の経験から来るものなのだろうか。

「…夕夏はそのとき、どうだった?」

「私?うん…相手は毎日顔合わせる人間で、しかも私なんかきっと眼中にすらないだろうって、勝手に思い込んでたから最初は何も出来なかった」