「そのほかの理由、って…」

恐る恐る訊ね掛けた瞬間、夕夏は顔を顰めた。

「二・三十年くらい前にね、純血の風使いたちが住む集落を襲う奴らが急増したんだ。数が減ったのはそのせい」

「そんなっ…何のために?」

「陸は純血に極めて近い混血みたいだけど、やっぱり髪も眼も凄く綺麗で人目を引くじゃない?風使いの血筋には美形が多いから…人身売買の市場で物凄く人気が高いんだ」

人身売買――昨今は規制が厳しくなったとはいえ、八ヶ国のどの国でも完全に根絶はされていない。

現状でこれなら、三十年も前はもっと酷かったのだろう。

「しかも、複数あった集団の中には薄暮の現領主が参加した一団があるなんて噂も上がってる」

「薄暮の今の領主様って、月虹を作ったっていう…」

「そ。それは飽くまで噂だけどね…炎夏や樹果を侵略したり月虹を作って更に侵略を企んでるのは事実だし、奴ならやり兼ねなさそうだよ」

戦争を起こして両親を奪った上、月虹を設立して慶夜を連れ去った――

夕夏にとって薄暮の領主は、どれ程までに憎い相手だろう。

「…ちょっと脱線したけど。要はその乱獲を免れた風使いたちは国から保護されてるし、その辺りを当たって行けば陸の家族を見付けるのも、そう難しくないと思ってたのよ」

「そっか…夕夏がいてくれなかったら私、何も知らないから遠回りしてたかも」

「まあ、春雷で一番有名な純血が母親だなんて確かに驚きだよね。でも京さんも周さんも、予想以上に親しみ易い人で良かった」

他の国の領主だったらこうは行かないからね、と夕夏は大きく背筋を伸ばした。

――自分たちですらまさか、と思ったのだから。

あの偽者が自分の名前を口にした瞬間や、京と対面したあのとき、陸はどれだけ戸惑っただろう。