「…解ったよ、陸。お前が其処まで覚悟してるのなら、俺も覚悟を決めないとな」

周は苦笑しながら立ち上がると、陸の眼前まで歩み寄った。

「…お前は子供の頃、同じことを俺に訊いたんだ。自分の力は何のためにあるのかって。そのときの俺は、お前が納得出来る答えを見付けられなかったが…お前は自力でその答えを見付けたのか。俺はお前のこと、全然解ってないな」

「そんなことないよ。父さんが俺のこと凄く考えてくれてるって、ちゃんと解ってるからこんな我儘言えるんだ」

すると周は片手で顔を覆いながら、困ったように笑みを浮かべた。

「お前は本当に…そういうとこもあいつそっくりだよ」

「…俺は男だから、父さんにも似たいんだけどね」

「似てるさ、お前は俺と愛梨の子供なんだから。癖毛の具合なんか特に俺とおんなじだ」

周の掌が、陸の銀髪をわしわしと乱雑に撫でる。

「父さんのせいだったの、これ。髪を切って貰ったときに晴は切り易いって言ってくれたけどさ、寝癖が付き易くて直すの大変なんだよ?」

「はっは。同じ苦しみを味わえ」

そんな他愛のない会話を一頻り交わしてから、周はふと表情を切り替えた。

「よし、やるか」

「うん」

すると陸の右手が不意に晴海の手を捕らえた。

「!」

周には笑って見せているが、その手は小さく震えている。

胸の中の靄はまだ晴れ切っていなかったけれども、今は陸の手を握り返すことしか出来なかった。