「…ああ、美月(みづき)さん」

その視線の先には、端正ではあるが少しきつそうな顔立ちの女性が立っている。

女性のねめ付けるような冷たい一瞥に、晴海は思わず身を縮めた。

「そちらの方々は?」

「僕の友人だ。失礼のないようにお願いするよ」

今までは誰に対しても穏やかな物腰であった京だが、美月への回答だけは妙に事務的だ。

「…ええ、勿論ですわ。京様もあまり旦那様にご負担を掛けられぬように、お気を付けなさいませ」

対する美月も、慇懃無礼な態度で京に言い放つ。

「遊ばれる暇(いとま)がお有りでしたら、ご多忙な旦那様を更に支えて頂きたいところですわ」

「僕も常々、そう努めているよ。言われなくともね」

すると美月は無表情のまま踵を返して、足早に立ち去っていった。

威圧的な靴音が遠ざかってゆくのを聞き届けて、晴海は無意識のうちに止めていた息を大きく吐いた。

「っはあ……京さん、今のは?」

思わず声を潜めた夕夏の問いに、京は険しかった表情を漸く緩めた。

「彼女は父の、秘書官だよ。父も有能な彼女のことを、とても信頼してる」

「しかし、雇用主且つ領主の息子相手に随分な態度だな。目上の人間に対する口の聞き方がなってないんじゃないか」

寧ろ感心するかのように呟いた賢夜の頭を「あんたもだろ」と夕夏がひっぱたいた。

「あの人は僕が生まれるより前に先代の領主――祖母に拾われて以来、うちに仕えてるらしくてね。僕が物心ついたときからあんな調子だったよ」