「何って、女装」

低く告げられたその瞬間、髪を染めると言われたときより陸の顔が青ざめた。

始まったか、と溜め息混じりに小さく聞こえたほうを見遣ると、苦笑いを浮かべた賢夜と思わず目が合った。

「…姉さんは小さい頃、妹が欲しかったんだ」

賢夜は申し訳なさそうに、声をこそりと潜めた。

「それは、確かに私も本人から聞いたことあるけど…」

それが何故、陸を女装させるのに繋がるのだろう。

「姉さんは俺たちに良く“女の子ごっこ”をさせてな。しかも逆らうと恐ろしい目に遭うんだ。あれはその名残というか発展というか…大人になったら収束するどころか、より悪化したというか――要は男に女装させるのが好きなんだ」

成程、よく解った。

「君と知り合ってからはよく、妹が出来たみたいで嬉しいって喜んでたから…治まったのかと思ったが」

彼女の趣味の、一番の被害者であろう賢夜は陸に向かって祈るように両手を合わせた。

「陸みたいな、美形で華奢な容姿だと格好の獲物だからな。やっぱり狙ってたか」

ちなみに賢夜は、成長期に差し掛かって体格が良くなった当時、そのことを夕夏から叱られたらしい。

――すると、陸が再び助けを求めるようにこちらへ視線を寄越してきた。

が、止めに入ろうとすると、賢夜に制止された。

「賢夜っ?」

「陸には悪いんだけど…あんな楽しそうな姉さんは本当に久し振りなんだ。だから、もう少しだけ、陸を好きにさせてやってくれないかな」

「…!」