港に停泊してあった小型船全てが、自分たちの乗っている船と同時に出航していた。

そして慌てて追い掛けてきた役人の船を撹乱するように、散り散りに蛇行して海上を走っている。

「夕夏、何で他の船まで動いてるの?!」

「あの船の持ち主みんな、暁や仄さんの知り合いなんだ!日野さんが連絡取ったら、どんどん知人伝てに協力者が集まってくれたんだよ」

「陸が捕まった後、港の警備が一旦手薄になってな。役人らの目を盗んで船に乗り込むのは、比較的簡単だったらしい」

「凄い…!」

母や天地の持つ人脈と、彼らが皆で協力して作り出してくれた光景に自然と感嘆の声が上がった。

「ああ。壮観、だな」

港の船が一斉に走り抜ける様など、なかなか見られるものではない。

「追手はどれに私たちが乗ってるか判らないからね。こうして追手を振り切るって作戦よ」

先程の夕夏の笑みは、この計画のことだったらしい。

日野と夕夏が晴海を残して船の甲板へ出ていたのも、協力者とこの打ち合わせをするためか。

「どーだい、晴海ちゃん!おじさんもやるときはやるんだよ!」

運転室から日野の高笑いが響き渡ってきた。

「は…はいっ」

「だから今度、仄さんに宜しく言っといてね~!」

「奥さんに言っとくよ!!」

「あっ、夕ちゃんそれは止めてっ!」