すると不意に、夕夏が扉から顔だけ覗かせて声を上げた。

「夕夏」

しかし夕夏は面食らったように目を丸くしたあと、くすくすとにやけた笑顔を浮かべた。

「ごめん、お邪魔だった?」

「?」

その言葉が何を指しているのか解らず首を傾げた直後、自分の状況をふと思い出す。

先程から、陸の腕の中に収まった体勢のままだった。

「ぁっ、いや、これは違うのっ!そっそれよりこんなに大きな音がしたら見付からない?」

慌てて陸から身を離したものの、夕夏はまだ愉しげに笑っていた。

「大丈夫。追手はついて来れないから」

「ついて来れない…?」

「おいで。船が動き出したから転ばないようにね」

夕夏に手招かれて陸と顔を見合わせると、晴海は甲板へと足を運んだ。

そして、船の外に出ると今度は賢夜が後方を指差している。

東側の空と海は、少し薄明るくなり始めていた。

「…?」

促されるまま、振り向いた先に広がる光景を見たら思わず声を上げていた。

「――わぁ…!」