「晴、泣いた…?目がちょっと、赤い」

傷の手当てをしている最中に、ふと陸が顔を覗き込んできた。

手当てをするために点けた簡易照明のせいで、泣き腫らした目元に気付かれてしまったらしい。

「…少し、だけ」

「本当に俺は、晴を悲しませてばっかりだな」

陸はつらそうに眼を細めると、小さく溜め息をついた。

その指先が腫れた目元を掠めて、頬をやんわりと撫でる。

「…力が使えれば、晴を泣かせずに済んだのに」

独り言のように呟いて、直後に陸はくすりと笑った。

「……陸?」

「いや――自分の力が必要だと思ったことなんて、なかったんだ。こんな力いらなかった、こんな力なくなればいい…!ずっとそんなことを考えてた」

そういえば前にも言っていた――こんな力は、ないほうが幸せだと。

「誰が何のために俺に能力を与えたのか…力を齎(もたら)す何かがもし存在するのなら、その何かを恨めしいとさえ思った」

過去の記憶がないことよりも、陸の心に暗い影を落としている、何よりの要因。

それでも今は、その力を必要だと言えるのか。

「…俺は能力が使えなければ何も出来ない。なら誰かに利用されるよりも、俺の大切なもののために力を使いたい。だから、今は早く春雷に行きたいよ」

その心情の変化の顕れか、陸は屈託のない笑顔を浮かべた。

――大切な、もの。