突如掛けられた賛同の声に、夕夏は素早く振り向いて身構えた。

「馬鹿を治す薬はないからな。そうだろ、姉さん」

「賢!」

視線を向けた先には、陸を支えながら立つ賢夜の姿があった。

夕夏は安堵した様子で息をつきながら「遅かったじゃない」と口にした。

「悪い、親愛なる幼馴染み殿と、数年ぶりに話し込んでたら少し遅くなった」

「まあ、陸を無事に助け出せて良かったよ」

晴海は思わず身構えて固まったままでいたが、それに気付いた夕夏に軽く背を叩かれた。

「……りくっ」

覚束ない足取りで急いで傍へと駆け寄ると、陸は弱々しい笑顔を浮かべて見せた。

「晴」

「大丈夫…っ?秦に、何か酷いことされなかった…?!」

「ん、へいき」

「でも、ほっぺた腫れてる…」

薄暗い中でも判る程度に、頬が腫れている。

特に左頬の腫れが酷い――秦にやられたものだと容易に想像がついた。

「…大したことないよ」

「休ませてあげてくれ、かなり疲労してる。後のことは全部、俺たちに任せろ」