「…あの馬鹿絡みの話?」

「私ね、炎夏に来たばかりの頃は秦に嫌われてたの。他国から来た他所者だから、って」

あいつの言いそうなことだ、と夕夏は呆れて溜め息を漏らした。

「でも、秦以外にそんなこと言う人いなくて、とっても優しかったの。そしたら秦は、急に私のこと気に入ったから付き合えって言ってきて」

「…馬鹿の頭ん中ってほんっと理解不能だよね」

「私は、あの頃は今よりも他人と話すのが苦手だったから…上手く断れなくて。秦のこと、怒らせるようなこと言ったのかも」

「どうかな。あの馬鹿、昔っから気分屋だからね」

「初めて秦の誘いを断ってから、今まで優しかった同年代の子たちがよそよそしくなっちゃって…大人の人たちはそうでもなかったんだけど」

その頃はちょうど夕夏が炎夏を発った直後で、抑止役のいなくなった秦には逆らわないことが若年層の間で暗黙の了解になりつつある時期だったらしい。

そんなことは露知らず、秦に従わなかった晴海は彼との諍(いさか)いを嫌った周囲に避けられるようになっていた。

「みんなに避けられるのが寂しかった訳じゃないの。勿論少し悲しかったけど」

「晴海…」

「ごめんね、夕夏…っ勝手なこと言ってるって解ってるよ。私が秦とのこと、有耶無耶にしてたからみんなを巻き込んだのに」

自分がもっと強かったらきっと、こんなことにはならなかった――陸があんな目に遭わされることもなかった。

「私が自力で、何とか出来てれば済んだ話なのに…誰かに頼ることばっかり、覚えちゃって」

一旦は引いていた涙がまた溢れ始めて、声が上擦る。

「…自分だけの力で足りないときには、誰かを頼っていいんだよ?一人で何でも解決なんて、私にも出来やしない」

夕夏はそう言ってやんわりと両肩を抱き締めてくれた。