「でも、本当にどうやって此処まで来れたんだ?外には役人が沢山いたんだろう?」

「うん?」

秦もそれを不思議がっていた。

賢夜が強いことは承知しているが、それにしても彼がほぼ無傷となると、この国の警護は大丈夫なのかと逆に心配になる。

「…役人の中にも、この馬鹿を快く思ってない人間は少なからずいるってことだ」

「俺たちに協力してくれる人が、賢夜たちの他にもいるのか?」

「ああ、俺たちと一緒に春雷へ向かってくれる人もいる。冗談ばかり次々に口走るおっさんだけど、頼りにはなるよ」

「…炎夏には面白い人が多いんだな」

率直に受けた印象を述べると、賢夜は「そうか?」と苦笑して首を傾げた。

月虹にいた頃、身近にいた人間――月虹の研究員たちはいつも、無表情で機械的で冷たい印象しかなかった。

炎夏では、近所に住む世話焼き好きの夫妻や、商店街の話好きな店主たち、それに道行く見知らぬ人も。

「うん。みんないつも明るくて笑ってて、俺みたいな他所者に対しても優しかった」

「…炎夏の人間は気候のせいか、暑苦しい人が多くてな」

賢夜は呆れたような口調でそう言いながらも、少し嬉しそうに微笑んだ。

このまま春雷へ向かうということは、いよいよこの炎夏から離れるということか――そう思うと急に心がざわついた。

「俺、この国が好きだよ。俺は此処で色んな人に出逢えたし、沢山のことを知った。だから…こんな形で炎夏を後にするのは何だか寂しい」

楽しいことばかりではなかったが、それでもこの炎夏は多くのことを知ることが出来た場所だった。

「有難う、陸」