賢夜はそんな秦に冷たく一瞥をくれると、普段通りの穏やかな表情でこちらを振り向い た。

「よし、お待たせ」

そして何処で鍵を見付けてきたのか、両腕の枷を外してくれた。

賢夜に気を遣わせないよう急いで立ち上がろうとしたが、上手く両手足に力が入らない。

「大丈夫か?」

結局差し伸べられた賢夜の手を借りて、何とか立ち上がる。

「有難う賢夜…俺のことより、晴は…?!」

「心配ない、姉さんが一緒だ。君のことをとても心配してる、早く顔を見せて安心させてやらないとな」

「そうか、夕夏が……すまない、俺が捕まったせいで」

二人がいてくれて良かった、と思う反面、自分一人では晴海を守り切れなかったことが悔しい。

もし役人に囲まれたあのとき力が使えていれば――

「ああ、気にするな。此処には子供の頃から姉さんたちとしょっちゅう忍び込んでたから、慣れてるんだ」

「そう、なんだ」

忍び込んで何をしていたのやら、賢夜はくすりと笑みを溢した。

「……それに、晴海が俺を見て笑ってくれたからな」

その後、賢夜が何かぽつりと呟いた気がしたがよく聞き取れなかった。

「え?」

「いや。何でもない」