「俺が素直にそいつを見逃すと思うか?」

「勿論。話せば解るなんて、端(はな)から期待してない」

「…当然だ。少しでも妙な真似してみろ、すぐに俺の部下共が押し寄せるぞ」

「相変わらず、誰かの力を借りないと何も出来ないんだな」

「っ煩い!!」

何だろう――普段は寡黙な賢夜だが、今日は妙に饒舌だ。

「お前、まだ気付かないのか?大声で騒ぎ立てた割に誰も来る気配がないな」

「な…っ?!」

賢夜は軽く肩を竦めて、小さく溜め息を落とした。

「俺はなるべく話し合いで平和的に解決したかったんだがな…話を聞こうともしない連中には少し黙ってて貰った」

「馬鹿なっ…!邸の周囲や内部には大勢の役人や部下を配備しておいた筈だぞっ!? お前一人で突破出来る訳…っ」

狼狽える秦に、賢夜はもう一度大きな溜め息を吐いた。

「…お前は親子揃って人望ないことをいい加減に自覚したほうがいいぞ。まあ、もう手遅れだろうが」

「黙れっ!!親なしの下民の分際でっ…領主子息の俺に指図するな!!」

秦がそう口にした瞬間、賢夜は相手の鳩尾へ素早く拳を撃ち込む。

「がはっ…!!」

秦はそのまま、床へずるりと力なく頽れた。

「…だいぶ調子に乗り過ぎたな、ご子息様」