「――取り込み中のところ悪いんだが」

「だっ、誰だ?!」

突如聞こえてきた第三者の声に、秦は浮き腰で身構えた。

「その人は返して貰うぞ、秦」

勢い良く開け放たれた扉の向こうから、声の主が姿を見せる。

「貴様はっ…」

秦がその、長身の男の姿を認めて不機嫌そうに表情を歪めた。

「け…」

思わず声を上げかけたが、相手がこちらにちらりと視線を寄越して小さく頷いた。

任せろ、ということだろうか。

「賢夜ぁっ!!あのとき晴海を連れ去ったのはやはりお前だったか!その上、犯罪者に肩入れする気か?!」

(!)

賢夜が晴海を連れて行った――ならば彼女は無事安全な場所へ逃げ果(おお)せたのだろうか。

「…爆発を起こしたのは、彼を追ってきた薄暮の使者だ。俺は自分の眼でそれを見てる、彼には何の罪もない」

薄暮の使者、と口にする瞬間に賢夜は僅かに言い淀んだが秦は気付かなかったようだ。

「そいつを連れ戻すためなら、薄暮は炎夏を壊すことも厭わないってか…っ? 誰がそんな馬鹿げた話信じるか!!」

秦は激しく首を振って、賢夜へ噛み付くように息巻いた。

「信じないのはお前の勝手だろ…だが彼を薄暮に渡す訳にも、お前の無様な八つ当たりの相手をさせる訳にもいかない」