その動揺から生まれた隙を突き、反動をつけて秦の鳩尾に蹴りを喰らわせる。

「が、はっ……」

しかし鎖の長さに阻まれ余り強くは決まらなかったらしい、秦は軽くよろめいただけですぐ体勢を立て直した。

反動をつけた分、両腕には体重以上の負担が掛かり激痛が走る。

「く…っ」

「野郎…!図ったな!」

妙な気分だ――慶夜の襲撃を受けたあと、聴こえなくなってしまった風の声が微かにではあるが聴こえる。

大気中に満ち溢れる精霊たちの気配が、また弱々しいながらも感じ取れるようになっている。

同時に、左腕の傷が耐え難い程に激しく疼く。

(魔法が解けてる訳じゃない…多分あまり長く保(も)たない)

痛みに堪えながら、様子を窺うように身構える秦を真っ直ぐに睨み付ける。

「俺には、守らなきゃならないものがあるんだ…っ薄暮に連れ戻される訳にはいかない!」

すると、大きな破裂音を伴って頭上の鎖が千切れた。

「なっ…」

両腕に掛かる負担はなくなったものの両手が不自由なことには変わりなく、体勢を崩してその場にがくんとへたり込む。

秦は怯えたように後退りすると、慌てて大声を上げた。

「おい!誰か、誰かいるかっ!!爆破事件の容疑者が暴れ始めたぞ!!」

まずい――ここで役人たちを大勢呼ばれたら、多少力が使える状態とはいえ分が悪過ぎる。