念願叶って喜ばしく思うと同時に、ある言葉を思い出した。

『妻と娘は月虹に関わらせたくないから、離れて暮らしてるんだ』

もしこの少女が彼の娘だとしたら――いや、もしそうでなくとも――自分と関わったら彼女を危険な目に遭わせてしまう。

晴海を巻き込みたくなかった、だけど結局彼女の厚意に甘えたせいで巻き込んでしまった。

自分のせいだからこそ、自分の手で守りたいのに。

(俺は、一体こんなところで何をやっているんだ――)

「…俺が、守らなきゃ…」

「っ…さっきから何をぶつぶつ言ってやがる!」

淀んだ室内の空気が、微かだが自分の意思に応えて揺れた。

「…何だ?」

同時に、左肩の傷がずきずきと激しく疼き始める。

抗おうとすればする程、左腕に掛けられた魔力が身体を蝕んでいくのが判る。

(今はそれでもいい、頼む…っ力を、貸してくれ!!)

祈るように念じた瞬間、びしっと空気を切り裂くような破裂音と共に、秦の右頬に小さな切り傷が走った。

「っ何…!?」

音の正体はほんの小さな鎌鼬で、本来持ち合わせる力の何十分の一程だろうかという、弱々しいものだったが――

「どういう、ことだ…!?能力は使えない筈じゃ…っ」

秦を動揺させるには充分に威力を発揮したらしく、秦は酷く怯えた様子で戦(おのの)いた。