「もし人違いだったとしても、あの化け物並の能力なら薄暮の兵器開発に充分貢献出来るぜ。せいぜい薄暮のために実験材料として役立ってくれ」

――冗談じゃない、此処でまた月虹へ逆戻りしたら何のためにあの人は命を落としたのか。

晴海との約束も、仄への誓いも、偽りの言葉になってしまう。

風弓に、晴海のことを頼むと言われたのに。

利き腕を潰し、自由の利かなくなった身体を引き摺って、能力も使えなくなって。

そうまでして一体、何のために此処まで来たのか――

「…四年前、なら……」

「あ?」

「俺だって、四年前から…ずっと逢いたかったんだっ…」

――あの人が大切に持っていた、一枚の写真。

その中に写っている女性と幼い少女。

自分と同じ年頃らしいその少女のことが、初めてその写真を見せて貰ったときからずっと、気になっていた。

月虹から脱出したとき、行く宛てのない自分が真っ先に思い浮かべたのは、彼女のことだった。

あの子は、今頃何処で何をしているのだろう。

写真の中の小さな少女ではなく、成長した彼女の姿を一目でも見てみたい――そう考えながら辿り着いたのがこの炎夏だった。

しかし弱った身体へ追い撃ちを掛けるように降り出した雨水で体力を奪われて、次第に意識が遠くなって。

“折角外の世界へ逃がして貰ったのに、こんなところで自分は死ぬのだろうか?”

――そんなことを思い耽っていたら、あの子を成長させたかのような姿の少女が、目の前に現れた。