「だんまりを決め込んでいたが、残念だったな…これで終わりだ」

まずい、このままでは月虹から確実に使者がやってくる。

とにかく見え透いた嘘でも、時間を稼がなければ。

「違う、俺はっ…」

「違う?ああ、そうだったなぁ、左腕には何の傷もなかったな」

秦は底意地の悪い笑みを浮かべながら、左腕の傷の辺りに掴み掛かった。

「う、あぁああ…っ!!」

左腕から全身に、傷の痛みとは違った痺れるような激痛が走り、思わず声が上がる。

「ふん…今までいくら殴っても声を上げなかった癖に、傷がない場所に触れると痛がるってのは妙だなあ」

秦は左腕の傷を抉るように、ぎりぎりと掌に力を込めた。

「く…ぅっ…!!」

「…実験体に使われた腹いせに、薄暮と繋がりのある炎夏に攻撃を仕掛けたって訳か」

それはそれで、まだ疑っているのか――

「ち、がう…っ」

「くくっ…だが、さっきと比べて妙に良く喋るようになったじゃねえか」

秦は陸から身を離すと、声を上げて笑い出した。

「何が…おかしい…」

秦は笑いを噛み殺そうと必死のようだが、堪えきれず笑い声が漏れる。