「…俺は、陸」

「りく?」

確かめるようにその名を反芻する。

何だか、初めて聞いた名前ではない気がした。

「晴」

「えっ」

紅い瞳に覗き込まれて不意に囁かれた瞬間、どきりとした。

青年――陸の均整の取れた顔が間近にある。

何故か急にそれが気恥ずかしくなって、別の意味で頬がまた熱くなった。

「晴の眼は名前と同じ、晴れた日の海の色だね。…凄く、綺麗」

陸はそう言って、嬉しそうに目を細めた。

「う…ぁ、ありがとっ……でも私、貴方の眼の色のほうが素敵だと思う。真っ赤な眼なんて、珍しくてとっても綺麗だよ」

「そうかな」

陸は何故か物憂げな表情で首を振ると、再び興味深そうに晴海の眼を見つめた。

晴海はその眼差しから逃れるようにふい、と素っ気なく目を逸らした。

その瞬間、陸が気を悪くしたのではないかと、少し不安になる。

「…あ、あのね陸っ、私の家、此処からすぐ近くなの。手当てと着替え、用意出来るから…そこまで歩ける?」

慌てて振り向いた瞬間、陸の身体がぐらりとよろめいた。