黙ったまま秦を睨み付けると、相手はそれを肯定と受け止めたらしい。

「…使うつもりなら今までいくらでも機会はあった。その様子だと、どうやら能力は使えないみたいだなあ?どういった理屈かは、俺にはどうでもいいが」

いい気味だ、と強気な表情で秦は侮蔑の笑みを浮かべた。

自分に打ち負かされ、及び腰で逃げ去った際の様子とはまるで別人だ。

「さて、と…お前には他にも聞きたいことがある。大人しく口を割らないとその、すかした面が台無しになるぜ」

掴まれていた前髪が漸く放されたかと思うと、今度はその指がつい、と顎を持ち上げた。

「お前、どの国からの差し金だ?炎夏を脅かすような真似をやらかしそうなのは黎明か秋雨…まさか春雷か?」

「秦様、見た目と能力は春雷の風使いの特徴そのものですが、何分逆に目立ちますし、偽装の可能性も有り得ます」

「んなことは最初から解ってるっ!!」

(本当か?)

「っとにかく、炎夏を敵に回すってことは同盟国である薄暮の敵である可能性が高い訳だ…!さあ、答えろ!!」

答えろ、と言われて素直に返答する気分になる訳もなく、押し黙ったまま秦を真っ直ぐ見返した。

そもそも秦が望むような答えは持ち合わせていないし、自分が何処の誰かなんてこちらが訊きたいくらいだ。

まさか、炎夏の支配国である薄暮の研究施設から逃げてきたなどとも言えまい――

そんなことをこの男に知られてしまったら、確実に月虹へ送り返されてしまう。

何とか隙を見て此処から逃げなくては。

能力が使えずともせめて体調が万全なら、そう難しくはないのだが。

「…一度だけ質問を変えてやる。今朝晴海の傍にいた、金髪は貴様の仲間か?」