「晴海の母さんから連絡貰ってたんだ。君たち二人と一緒に春雷へ行って欲しいって」

「母さんがっ?そんな…」

確かに春雷へ行く、という話は出ていたが、いつの間にそんな話が進んでいたのだろう。

まだ春雷行きの件は具体的には何も、決まっていないと思っていたのに。

「本当なら、陸の怪我がもう少し良くなってからって思ってたんだけどね…とにかく陸を連れてきたらすぐ春雷へ行こう」

「…でも姉さん、あの馬鹿が晴海を誘き寄せるために何か行動に出るかも知れないぞ」

「――それなんだけどね、たった今どうやら秦様が全国民に向けて発令を出したようだよ」

「!」

不意に第三者の声が割って入ったかと思うと、無線機から流れる音声放送を聴きながら、壮年の男性が船室内に入ってきた。

「ああ、なんだ日野さん…!晴海、このおっさんは船の持ち主で、暁の知り合いなんだ。晴海の母さんとも顔見知りらしいよ?」

「おっさんとは直球だねぇ夕ちゃん…天地先生には昔から世話になってるし、仄さんはいつも店で僕の話し相手をして貰ってるからね。彼らの頼みなら喜んで協力するよ」

成程、仄の仕事先の常連客、か。

「特に僕は仄さんに恋しちゃってるしね…彼女に瓜二つな娘さんのためなら、おじさんも俄然張り切っちゃうぞお」

「日野さん、奥さんも息子もいるじゃん。晴海が引いてるから、ちょっと自重して」

「はっはっは、冗談だよ~」

「…で、日野さん。あの馬鹿が何を発令したって?」

賢夜は日野の言動に少々辟易した様子で、先程の発言について言及した。

「ああ…音声放送でな、秦様が直々に爆発事件の容疑者を確保したことと、協力者の自首を要望するって言ってるんだ。出頭しないと、容疑者の身の安全は保証しないとね」