「ちっ…あの馬鹿、今回はやけに行動が早いじゃないか。こっちの対応が追い付きやしない」

「夕夏っ…」

不安げに名前を呼ぶと、夕夏はすぐ隣に来てくれた。

「陸…っ陸が……」

声が上擦って、上手く話せない。

すると、忙(せわ)しなく震える両手を夕夏が優しく握ってくれた。

「陸のことはすぐ私らが何とかする。晴海は、あの馬鹿に見付からないように此処で隠れてて」

「…っく……」

瞬間、涙が溢れてきて、思わず小さな子供のように泣き出してしまった。

「りく…っ陸…!…どうしよう夕夏、わたしのせいで、陸が…連れて行かれて…っ!!」

「大丈夫…大丈夫、晴海のせいじゃないよ。怖かったのによく頑張ったね」

夕夏に宥められても尚、堰(せき)を切ったように涙がぼろぼろと零れる。

「でもっ…私が、秦を怒らせたから…っ」

「今回の行動はかなり予想外のことだったよ。まさか奴が此処まで馬鹿だとは思わなかった」

夕夏の声色から明らかな苛立ちが伝わってきて、ふと彼女の顔を見上げる。

すると夕夏は優しく笑いながら頭を撫でてくれた。

「馬鹿親子のことはいずれ、この国の人たちが始末を付けるよ。私らが今すべきことは、君たちを無事春雷まで送り届けることだ」

「春雷、に…?」