「いやっ…!陸っ!!っまだ陸が彼処に残ってっ…!陸を置いて行くなんていやだ…っ!!」

取り乱して抵抗すると、腕の主に必死で宥められる。

「落ち着け…!陸を見捨てる訳じゃない!けど今は君だけでも逃げるんだ!!彼もそう、言ってただろう!!」

懸命に自身を諭す声に聞き覚えがあることに気が付いて、晴海は漸くその人物の顔を振り向いた。

「っ賢夜…!!」

「港で姉さんが待ってる、それまで悪いが辛抱してくれ…!」

秦が喚き声を上げているのが、遠くから聞こえてくる。

「陸…!!りくっ……」

陸が秦に酷いことをされないだろうか――そのことで頭が一杯になって、何も考えられない。

――賢夜は道なき道を走り続けて、多くの漁船や個人船が停泊している船着き場に辿り着いた。

「よし…まだこっちには警備が回ってきてないな」

賢夜は晴海を抱き抱えたまま、沢山の船の中の一艘に走り寄った。

「賢、晴海…!」

船の中から夕夏が顔を覗かせて手招きしている。

賢夜が滑るように船室へと乗り込むと、薄暗い船内で夕夏はすぐ賢夜に詰め寄った。

「陸は?!」

「秦の奴に捕まった。もう少し早く追い付ければ良かったんだが…」

晴海を椅子に座らせてくれながら、賢夜は俯きがちに告げた。