裏口の扉から庭へ飛び出すと、陽は傾きかけて空と海を橙に染め始めていた。

手を繋いだまま入り組んだ路地の先へ、港を目指してひた走る。

ふと自宅を振り向きざま一瞥すると、次の瞬間、役人たちが家の中へ無理矢理押し入ったらしい喧騒が聞こえた。

「母さん…!!」

思わず声を上げて立ち止まり掛けると、それを諌めるように繋いでいる陸の掌の力が強くなった。

「晴、駄目だっ」

「ぁ…」

此処で止まったら、仄たちが時間稼ぎをしている意味がなくなってしまう。

名残惜しい気持ちを振り切るように、晴海は大きく首を振った。

――しっかりしなくては。

「陸、その先の角を右に曲がって!この道が港に近いからっ」

陸は港までの道筋を知らない、自分が誘導しなければ。

「解った…!」

「今度は、左に行って…それから暫くは真っ直ぐ!」

突き進むにつれ、陽の光はどんどん弱まり始めてきていた。

それでも薄暗い路地を、走り続ける。

喧騒を、憂いを、不安を振り切るために。

夕闇が迫る坂道を駆け抜けた。