「晴」

「母さん?」

名を呼ばれて振り向くと、仄は意を決したように言い放った。

「――ちょうどいい機会だ。あんた、陸と一緒にこの国から出な」

「…え?」

身体から一気に血の気が引いた。

国を、出る?

「大陸続きの国よりも、他の大陸のがいい。そうだ、 前に行きたがってた春雷なんて良さそうだね?馬鹿息子も頭が回れば、もう港を封鎖してるかも知れないけど」

「もし連絡船が使えなくても、船持ちの知り合いがいくらでも船を出してくれるさ。大丈夫、俺たち街のみんな、才臥さんの味方だぞ」

「ち…ちょっと待ってっ……」

話がどんどん進んでいって思考が上手く追い付かない――国を出るって、今から?

「陸は何もしてないのに…っ!証拠もないんだし、役人のひとにちゃんと事情を話せば…」

「話をしたところで時間の無駄だよ。証拠があろうがなかろうが、捕まれば理由をいくらでも後付けされるさ」

「だって…母さんは?残るの?私の代わりに母さんが捕まるなんてこと、嫌だよ…!」

母の傍へ駆け寄ると、仄は笑いながら優しく頭を撫でてくれた。

「母さんは大人だから大丈夫です。というか此処の役人たちなんかには負けません。馬鹿息子も私を捕まえたところで用がないだろうしね」

「仄さん、俺…」

陸が苦々しげな表情で仄の顔をじっと注視した。