青年は真っ青な顔色で、こちらをゆっくりと見上げた。

瞬間、彼の険しかった表情が微かに和らいだような気がする。

「平気…気が抜けた、だけ。君のほうが痛かっただろ」

「私?」

秦に叩かれた頬に、青年の右手がそっと触れた。

「!あ、あの…」

頬はまだ熱を持っていたが、青年の冷たい掌が心地良い。

気のせいだろうか、何だか痛みが少し引いたような気がする。

「私は大したことないよ、それより貴方の怪我のほうが酷いじゃない」

血は、既に左の袖全体を真っ赤に染め上げている。

「…心配ないよ、もう血は止まってる」

青年は晴海を安心させるかのように、弱々しく左腕を振って見せた。

「酷いな、あいつ。…髪も服も泥だらけじゃないか」

「こんなの、洗えばいいもの。それより貴方がこれ以上怪我しなくて良かった」

晴海が笑い掛けると、青年は小さく首を振って俯いてしまった。

「…これ以上、俺と関わると君に迷惑が掛かる。俺は、そろそろ消えるよ」

「そんなことない!」

晴海は青年の言葉を遮って、立ち上がろうとした青年の右腕を咄嗟に掴んで引き留めた。