そのとき。

「――才臥さんっ!才臥さん、おるか!?」

玄関の扉を激しく叩く音と、男性の慌てふためく叫び声が耳を突いた。

「…?!」

驚いて陸と顔を見合わせると、仄が首を傾げつつ玄関へと向かっていく。

「何だよ騒がしい…扉壊れたら弁償してくれる?」

軽口を叩きながら仄が開いた扉の向こうには、斜め向かいの家に住む中年夫婦が揃って緊迫した面持ちで立っていた。

「冗談言っとる場合かっ!あの馬鹿息子、とうとうやらかしおったぞ!!」

「…何があったの」

男性の剣幕に、事態がただごとではないと察知したのか仄の声色も俄に低くなる。

“馬鹿息子”が誰を指すかは、この街では説明不要であった。

「あいつ、才臥さんの家に居候してる銀髪の兄ちゃんが、この前の爆発事件を起こした犯人だなんて言い出したんだよ!」

「!!」

この夫婦とは近所付き合いのある家庭の中でも特に仲が良く、陸が居候していることは以前から知っていた。

「そりゃまた突拍子のない…親父のほうはどうなの?」

仄は呆れたように溜め息をついたが、晴海は秦があのとき言い放った言葉を思い出していた。

『畜生っ…!覚えてろ、今に思い知らせてやる――』

「それがな…あの領主、何の調査もせずに息子の言うことを鵜呑みにして、あの兄ちゃんを容疑者として逮捕許可の命令を出しちまったんだ!!」