「晴…！」

陸は妙に不安げな表情でこちらを見上げながら、慌てて立ち上がった。

「良かった、もう大丈夫なのか？」

「う、うん…何か、状況が良く解らないけど大丈夫だと思う。私、陸が帰ってきてから倒れたの？」

「ああ……そうなんだ。だから俺、焦って仄さんの職場に連絡してしまって」

不意に陸が両腕を伸ばしてきたかと思うと、その腕に抱き締められる。

「りっ…陸?!急に、どうしたのっ」

「凄く、心配だったんだ。晴が無事で本当に…良かった」

「ぁ…あ、あのっ、りく…」

少し痛いくらいに強く抱き竦められ、恥ずかしさの余り真っ赤になった顔が陸に見えなくて良かったと思った。

「もしもし、陸くーん。あたしがいること忘れてない？」

仄がわざとらしく大きな咳払いをついた瞬間、陸は驚いた様子で素早く身を離した。

「すっ…すみません」

ばつが悪そうに苦笑した陸に、仄は満面の笑顔を返して見せる。

「ま、いいけど。晴、今日はあたしが夕飯作るから座ってな」

「え…でも…」

今日は本来、母が夕方まで仕事だから自分が夕食を作る当番の日だったのに。

「いいからいいから。早目に帰って来たんだし、たまにはいいだろ？」