まさか先程の突風が、上空の雨雲まで吹き飛ばしたのだろうか?

それに、あの白い光は――

「!そうだ、秦は…?」

辺りを見回すと、秦が立っていた場所から随分と離れた先の突き当たりに、資材や砕けた木箱の破片に埋もれて倒れ ている秦の姿があった。

「く…っそぉおっ」

秦はよろよろと立ち上がると、青年の姿を認めて怯えるような表情を見せた。

「…まだ、やるか?」

「ひっ…」

青年の冷やかな眼差しに射抜かれて、秦は数歩後退りする。

流石に先程の一撃で、彼との力の差を思い知ったようだ。

「おっ、覚えてろ…!」

情けない声色で情けない捨て台詞を絞り出すと、秦は覚束ない足取りで逃げ去った。

秦の姿が見えなくなると、途端に張り詰めていた糸が切れたように青年がその場に頽(くずお)れた。

「あ…!」

呆然と様子を見守っていた晴海は、慌てて青年の傍に駆け寄った。

「大丈夫!?」

苦しげに肩で呼吸する青年の傍らに、膝を着く。

すっかり泥塗(まみ)れになってしまったが、今更そんなことはどうだっていい。