――あの人がよく言っていた。

風弓はとても家族想いで、特に双子の姉のことは、遠く離れてしまった今でもずっと、大切に想っているんだと――

もし、風弓にまだ自分の声に耳を傾けてくれる意志が残っているのなら、どうか聞き届けて欲しい。

「ふざけるな…!俺を動揺させて、あの女を助けさせるつもりかっ…?」

「風弓…頼む、詳しく説明する時間がないんだ…!俺はお前に恨まれても仕方ない、でもこのままじゃ俺はお前に取り返しのつかないことをさせてしまう!!」

風弓は少し戸惑いがちに眼を泳がせた。

「俺のことが信じられないなら、空間の入り口を開けてくれるだけでいい!俺が入って彼女を引き上げてくる!!」

「…!!」

もしその間に風弓が空間の扉を閉じてしまったら、今の自分に逃れる術はない。

「馬鹿かっ…?俺が、お前の言うことを素直に信じると…」

「俺は、風弓を信じるよ…!」

「っ…!!」

風弓は何か言いたげに口を開き掛けたが、小さく舌打ちをしただけで何も言わなかった。

暫しの沈黙の後――風弓が足元に向かって掌を翳すと、瞬時に湧水が溢れるかの如く水溜まりが現れる。

「…!風弓、有難う」

思わず安堵の表情を浮かべてそう告げると、風弓は苦々しげな表情でこちらを睨み付けるだけだった。

其処へ急いで駆け寄ると、躊躇もせずその水面に飛び込んだ。

まるで地中へ潜ってゆくような感覚とは裏腹に、ごぼんと水の中へと身体が沈む。