父のように慕っていたあの人が、月虹で唯一の心の拠り所としていた彼が、自分のせいで殺された。

彼の大切な息子を、これ程までに変貌させてしまった。

「俺が、関わったせいで…」

血塗れの両腕が、かたかたと震える。

「そうだ…お前のせいだよ、陸…!お前さえいなければ、誰もこんな思いせずに済んだんだっ…だからお前と関わったせいで、あの女ももうすぐ死ぬんだ!!」

「!」

呆然として気力を失い掛けていた、そのとき、その言葉で我に返った。

「だっ…」

「そうすればお前にも俺の痛みが少しは解るか…?!少なくとも月虹から逃げる気は二度と起こさなくなるだろ!?俺たちはどうせ、あの場所から逃げられやしないんだ!!」

「駄目だ、止めろ!!あの子は、っ…彼女はお前の姉さんだぞ!!――風弓(ふゆみ)!!」

必死に振り絞った陸の叫び声に、少年はぴたりと高笑いを止めた。

「………な」

少年――風弓は、父譲りの青灰色の眼を細めて陸を睨み付けた。

「何を、言ってる…?」

その声には僅かながら、動揺が入り交じっている。

どんな言葉を投げ掛けても揺るがなかった慶夜とは、少し違う。

「俺の家族は、親父だけだっ!!その親父はお前のせいでいなくなった…!!」

「違う!俺はあの人が、月虹のせいで奥さんと娘の傍から引き離されたことを知ってる!!」