――晴海の姿が完全に水中へと呑まれた瞬間、行く手を阻んでいた水壁が霧散した。

同時に晴海を呑み込んだ水溜まりも、水壁と共に跡形もなく消え去る。

「っ畜生、何で…」

陸は暫く愕然とその場に立ち尽くしていたが、不意に玄関口へと駆け出した。

既に他者の気配を感じ取ることも儘ならない程に能力は弱っていたが、それでも月虹の追手が現れたことは明白だった。

「何で俺を直接狙わない…っ!!」

外へ飛び出した瞬間、未だ姿を見せない相手に向かって陸は声を張り上げた。

すると、何処からともなく冷ややかに笑う声が響いてくる。

「お前に、俺と同じ思いをさせてやるためだよ。陸」

「…!」

陸の胸中で、出来れば的中して欲しくなかった予測が当たってしまった。

月虹の能力者は其々、操る魔力の要素が違う。

他者と同じ属性を持つ能力者は一人として存在しない。

陸の記憶の中で、水の能力者である人間も当然一人しかいない――よって、予測が外れる筈もない。

それでも陸は“彼”が追手ではないことを、彼の声を聴く直前まで願っていた。

「どうしてお前がこんなことっ…!」

陸の叫び声に応えるように目の前に水溜まりが生まれ、その中から一人の少年が現れた。

だが、見知った筈の青灰色をした少年の眼は、月虹で最後に見たときよりも暗く淀んでいる。