完全に焔が消え去ると、青年は秦を冷たく睨み付けた。

「大して珍しくもない。あんたくらいの弱小能力者、掃いて棄てる程存在するよ」

「なっ…何だと!」

秦は青年の束縛から逃れようとするも、掴まれた右腕は全く外れない。

慌てて左手の拳を振り上げたが、その瞬間に青年はするりと秦の間合いから抜け出した。

「能力っていうのは、こう使うんだ」

いつの間にか秦の背後に回った青年が、手前に翳した右手から真っ白な眩い光が巻き起こる。

次の瞬間、地鳴りのような凄まじい音が辺りに響き、晴海は何が起きたのかすぐには理解出来なかった。

衝撃波のような突風が目の前を駆け抜け、咄嗟に目を閉じたせいだ。

辛うじて耳に届いたのは、途中で轟音に掻き消された秦の悲鳴。

音が止んでから恐る恐る目を開くと。

「…え?」

――雨が、止んでいた。

それどころか、雨雲が立ち込めていた上空には雲一つない青空が広がっている。

建物の壁に縁取られた狭い空から、陽の光が射し込み始めた。

「やっぱり、弱ってきてる…」

困惑する晴海をよそに、青年がぽつりと独り言のように呟く。

「えっ…ええ?」