「そっ、か」

唐突に父親扱いしてしまったせいか、陸は少々複雑そうに頷いた。

「うん、だからもう少しだけ…こうしててもいい?」

「ん…いいよ」

母以外の人物の手に撫でられるのは久々で、それが陸だからなのか、妙に心地好かった。

だから陸を困らせるだろうとは思ったけれど、もう少しだけ、甘えさせて貰おう。

たとえ自分の気持ちは伝えられなくとも、これくらいの我儘なら、きっと許されるだろう――

「…元気に、なった?」

一頻り撫で続けてくれたのち、陸はやんわりと微笑んだ。

「うん。有難う、陸」

「今の、さ。月虹にいた頃、前に話した俺の担当の人が同じようにしてくれてたんだ。俺が落ち込んでるときとか…いつも見る夢から覚めたときとか」

(いつも見る夢?)

「…夢って、どんな?」

少し遠慮がちに訊ねると、陸は少し顔を顰めて小さく息をついた。

「…小さい頃の自分が真っ黒な影に追われてる夢だよ。俺はその影から逃げるんだけど、最後は追い付かれるところで必ず目が覚めるんだ。月虹にいる頃は頻繁にその夢を見て…だから俺はいつも眠るのが怖くて堪らなかった」

陸は炎夏へやってきた日に倒れてから、目を覚ますまでの三日間、苦しげに魘(うな)されていることが多かった。

左腕の傷が痛むせいかとばかり思っていたが、もしかするとあのときも例の夢を見ていたのかも知れない。

「だけど、最近はあまりその夢を見なくなったんだ。…きっと晴のお陰だな」