――あの後、考えごとをしているうちに陸が夕夏たちに付き添われ帰ってきてしまった。

料理には結局手付かず終いで、夕夏と賢夜にはすぐ帰るから気にするなと言われてしまい。

二人が帰ってから少し気落ちしていたら、陸が心配げに顔を覗き込んできた。

「…晴、顔色悪いな。大丈夫?」

「あっ…ううん、へいき…」

秦が現れたこと、それに陸と似た青年――京に助けて貰ったことを話さないと。

しかし、皆からの忠告を守らず秦に襲われ掛けたことを思うと少し後ろめたい気分だった。

「でも晴、何か元気ないように見えるけど…」

「そうかな…そんなことないよ?」

そう告げてもまだ、陸は心配げにこちらを見つめている。

そして陸がふと両手を伸ばしてきたと思うと、その掌に優しく髪や頬を撫でられた。

「りっ、陸…?!」

突然の行為に驚いて声を上げると、陸は手を止めて苦笑した。

「ごめん。晴が、早く元気になるようにって思って…嫌だった?」

「ううんっ、全然嫌じゃないよ」

寧ろ、幼い頃に父や母が撫でてくれたことを思い出す。

そうだ――陸の撫で方は、父が嘗(かつ)てそうしてくれたときの仕草と良く似ている。

「…陸、何だか父さんみたい」