「まだ、やるかい?」

「ひっ…」

秦はあのときのように吹き飛ばされた先でよろよろと立ち上がるも、満面の笑顔で問い掛けられ情けない悲鳴を上げた。

もしかすると、秦もあのときのことを思い出したかも知れない。

「畜生っ…!覚えてろよ、今に思い知らせてやる!!」

そして、口惜しげに捨て台詞を吐きつつ及び腰で逃げて行った。

「何だ、勢いが良かった割に呆気ないね」

青年は拍子抜けしたように息をつくと、いつの間にかその場にへたり込んでいた晴海の眼前に膝を着いた。

「大丈夫?」

目の前で起こった光景に呆然としていた晴海は、改めて青年の顔を間近で認めて驚愕した。

こちらを心配そうに覗き込んでいる青年――その顔立ちは幾分大人びてはいるが、陸と非常に良く似ているのだ。

「えっ…あ、あの……」

「立てるかな?」

差し出された手を躊躇いがちに取ると、青年の長身痩駆からは想像し難い程軽々と身体を引き上げられた。

立ち上がってみると、身長も陸より少し高いことに気が付く。

「あ…ありがとう、ございます」

「怪我はなかった?」

「は、はい」