秦自身が焼かれることはない、術者の能力を具現化した焔。

「ふん、能力者が珍しいか?俺に逆らう奴はこれで痛い目に合わせてやった…てめぇも今からその一人だ!!」

得意げに語り終えると同時に、秦が青年に殴り掛かった。

「秦、やめて!!」

しかし青年は微動だにしない。

立っているのがやっとで、避ける余力も残っていないのだろうか。

――だが、秦の拳は青年に当たらなかった。

「な…」

青年は既(すんで)のところで、焔に護られた秦の手首を右手で掴んでいた。

「はっ、馬鹿が!自分から焔に触れやがったっ!!」

押さえ込まれても尚、秦は自分が優位に立っていると確信した表情を崩さない。

「その焔は俺の意志でしか消せない…!一度燃え移れば、俺の気が済むまで燃え続けるんだっ…」

しかし、秦のその自信に満ちた笑みは、すぐに困惑と驚愕が入り交じった表情に変わっていった。

「…?!どういう、ことだ!!」

秦の腕が纏っていた焔は、燃え広がるどころかみるみる消えてゆく。

まるで、青年の掌へ吸い取られるように。

「…この程度か」

青年が無表情のまま、抑揚の無い声で言った。