「…お前はあいつに騙されてるんだよ」

違う。

「あの瓦礫の山を見ただろ?あいつのせいで、俺たちの街が滅茶苦茶にされたんだ」

陸のせいじゃ、ない。

「お前は知らないかも知れないが、炎夏は薄暮の同盟国なんだ。あの野郎は薄暮の敵対国から送り込まれた、俺たち炎夏に住む人間の敵だ!!」

「っ!!」

何も知らないくせに――

晴海は咄嗟に身を翻して、秦の頬を思い切り平手で打ち据えた。

「やめて!!それ以上陸のことを侮辱したら許さないっ!!」

そして矢継ぎ早に、自分でも驚く程大きな怒声を上げていた。

燃え上がるような怒りが駆け巡って、身体が戦慄する。

秦も予想外の一発と怒号に暫し呆然としていたが、ふと我に返って不快げに表情を歪めた。

押し黙ったままの秦に両手首を掴まれ、叩き付けるように壁際へと追い詰められた。

「ぃ、たっ…!!」

骨をへし折られるかと思う程に、両手を掴んだ手に力が込められる。

これまで見たこともないくらい嫉妬に歪んだ秦の形相に、先程まで全身を支配していた怒気が怯む程の恐怖が込み上げた。

「…どう、許さないって?俺の手を振り解くことすら出来ないお前が?…あの野郎のことばかり気に掛けやがってっ、胸糞悪いのはこっちのほうだ!!」

両腕を頭上で一纏めに押さえ付けられ、空いた秦の右手が再び顎を掴む。