その言葉に、極端にほっとしてしまい、ちくりと胸が痛んだ。

「…俺には、前からずっと好きな人がいるんだ。そのことは雪乃にも…何度も伝えた筈なんだけどな」

「えっ…」

好きな、ひと。

陸の口から何気なく告げられた一言に、先刻とは比べ物にならない程ずきんと心臓が跳ね上がった。

前からということは――相手は月虹にいる人なのか。

もしそれが、陸と同じ境遇の能力者だとしたら。

自分には、その間へ入り込む余地すらなさそうだ――

「だから俺は……晴?」

「えっ?あ…ごめん、ぼんやりしちゃって…」

「いや、いいよ。それより雪乃、他には何も変なこと言ってなかった?」

陸は困り果てた様子で髪を掻き混ぜながら、苦笑いを浮かべた。

「そ、そういえば…あの、もしかしたら聞き間違いかも知れないけど…私のこと誰かに似てるって」

「誰か、って」

するとほんの一瞬、緋色の瞳に動揺の色が映った気がした。

「それは分からないの。だから陸にそのことで、もし心当たりがあれば聞きたかったんだけど…」

「……何かの間違いじゃないか?雪乃の言う通りなら、俺がとっくに話してるよ」

「そう、だよね」