「…ああ」

賢夜は苦々しげに顔を顰めると、晴海の身体を軽々抱き上げてくれた。

「俺がもう少し早く来ていれば…本当にすまない」

やはり顔立ちはあの慶夜と良く似ているがその表情は全く別人で、心から心配そうにこちらを見つめていた。

「そんなこと、ない……たすけてくれて…ありがと」

緩慢な動作で上着の袖を引いてそう告げると、賢夜は少し照れ臭そうに目を泳がせた。

賢夜は寡黙で、余り話をする機会がなかったが――こうして見せてくれる表情は慶夜よりも夕夏のほうに似ていると思った。

「――ところで賢、陸の様子は?」

天地の元へ向かいながら、夕夏が賢夜に訊ね掛ける。

「…慶にやられた火傷の痛みが酷いみたいでな。痛み止めがなかなか効かなくて…さっき漸く眠ったんだ。だから追手が来たことは知らない」

「そっか…」

夕夏は不安げに俯くと、小さく溜め息をついた。

「姉さん?」

「…さっきの子も、慶も、月虹に洗脳されてるせいとはいえ平然とあんな酷いことが出来るなんて…怖くてさ」

「俺も…正直、今の慶に逢ってもあいつを正気に戻せる自信はないな…」

先程の少女が頑なだった様子を目の当たりにして、二人の不安は一層強まってしまったようだった。

「もし慶が私たちを目の前にしたら、どうなるんだろう…」

「思い止まってくれるのか、それとも…」