「無抵抗の人間を痛め付けた奴に言われたくないな…!」

背面から夕夏の怒声を浴びて、少女は苛立ったように歯噛みした。

「慶夜そっくりのお兄さんは、本物より能力は見劣りするけどぉ…後ろのお姉さんも纏めて相手じゃ不利よねぇ。無茶して慶夜みたいに返り討ちにされたくないもん」

「あいつは、無事か」

賢夜に短く問われ、少女は怪訝そうに首を傾げた。

「…何よ?」

「慶夜は俺たちの弟だ。四年前に月虹に連れ去られた、な」

「君だって、私たちと同じように心配してる家族が故郷にいる筈だよ!」

すると少女は激しくかぶりを振って金切り声を上げた。

「はあ?どいつもこいつも煩いんだよ!だから外の人間と話すのは嫌なの…!もう、今日のところは諦めてあげるから、これ以上苛つくようなこと言わないで!!」

すると慶夜が消えたときと同様、少女の身体が雷の壁に包まれる。

「陸は絶対に連れ戻すんだからっ…!今に見てなさいよ!!」

捨て台詞を吐きながら、少女の姿は雷鳴の向こうに消えた。

――少女の気配が完全に消えたことを確認すると、夕夏は急いでこちらに駆け寄ってきた。

「晴海…っ大丈夫!?」

「……ぅ、ん」

上手く言葉を返すことが出来なくて、心配げに顔を覗き込む夕夏に頷いてだけ見せる。

「賢、早く暁のところに連れてって!かなり強い電流を浴びせられたんだ…!」